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『地域で活躍する演出家シリーズ』前田斜め

前田斜め Naname Maeda

作演出/役者

長野県松本市を中心に活動する劇団野らぼう所属。(norabou.net)

自前のテント劇場での公演実現を目指し、現在は野外劇スタイルでの表現を探求している。

場所や条件に合わせた作品作りを基本としており、作品のコンセプトから創作することを特徴としている。

また、劇作以外にも舞台美術や人形作りにも注力している。

これまでに創作した作品に、居酒屋を巡る”流し芝居”、毎朝駅前で行う”駅前朝芝居”、説明が難しい”音声同期型サイレント朝芝居”、身長3m40cmの巨大人形を使った”移動型無言劇”、太陽光発電によって電力を賄う”ゼロカーボン演劇”などがある。

第6回クォータースターコンテスト2017 準グランプリ

P新人賞2020 グランプリ・観客賞受賞

第13回せんがわ演劇コンクール2023 グランプリ・劇作家賞受賞・演出家賞受賞

劇団野らぼうの、作演出/役者を担当する前田斜めです。

『地域で活躍する演出家』というシリーズですが、私のベースは長野県松本市。人口24万人ほどの街で、演劇活動もわりあい少なくはありません。

そんな街で、私たちの劇団はテント芝居の実現を目指す有志で結成されました。

自前のテントで劇場空間を立ち上げてそこで演劇を行う。そんな公演が今年(2024年)、劇団発足6年目にしてようやく達成されようとしています。

そんな活動の一端を、ここでご紹介させていただきたいと思います。

野らぼうイメージキャラクター:洗濯くん

/偶然性/

そもそも、私の演劇経験の一番最初がテント芝居であり、役者としてテント劇団(劇団どくんご)に数年間在籍したのちに活動の拠点を松本市に移し、今は自分で旗揚げした劇団でテント芝居の実現を目指しています。

テントの魅力は様々ありますが、とにかく作品の中にその場所の環境、風、光、音、時間の移ろいなどが入ってくることをとても好んでいます。時に芝居の公演を知らずに通った人がいい存在感をはなったり、雷鳴や花火と芝居がシンクロするなんていう事もあります。そういう偶然性、自分たちの力では予想もコントロールもできない環境と併走していくことが、他の手法ではなし得ない表現だと考えています。

第5回公演「銀輝」公演フライヤー

/野外劇/

そんな私たちの活動は、テント芝居に限定されるわけではありません。

テントでの公演を実現させるためには、それ相応の準備とスキルが必要になります。芝居の稽古をすること以上に、必要な部材を検討したり揃えて扱えるようにしておく時間のほうが長いとも言えます。

私たちの場合はそんな準備を進めていくのにおよそ5年を費やしてしまいました。

徐々にスキルや必要なものを揃えながら活動の幅を拡張してきたわけですが、その間に行ってきたのが野外劇です。

これまでに松本市にある”あがたの森公園”を拠点としながらいくつかの作品を創作してきました。

それを振り返ると、ちょっとユニークなものになったと最近感じています。

第2回公演「帰り道」上演風景

/公園の中の風景/

演劇を成立させる要素はなんだろう。そのことをいつも考えています。

それは私たちの場合は劇場でもなければ戯曲でもない、およそ演劇の最低条件と言える要素よりももっと手前のところから創作を始めています。

野外で演劇を創作するとき、その大抵の場合は公演地選びから始めます。中規模サイズの公園である”あがたの森公園”は、いくつかのエリアに分かれて豊富な表情を見せてくれます。

大きな木、広い芝生、車の灯り、街の音、家々の並び、鳥や虫の鳴き声など。作品ごとにイメージにあった場所を選び、その風景を眺めながら作品を作っていきます。そうすると、野外劇における演劇の条件の1つ目に”風景”があるのかもしれない、と気が付きます。

作品を作る前に、そこには既に豊富な風景が広がっています。

これは、これまで活動を続けながら気がついた発見でした。

そしてこれは必ずしもここだけで起こり得る話ではないと思っています。

きっとどこでも、どこにでもその風景から立ち上がってくる演劇があるだろうと思っています。

第7回公演「ロレンスの雲」しこみ風景 客席のみテントを設けた半野外劇スタイルでの公演

/テント芝居/

野外劇とテント芝居、どちらも野外で行う表現でその条件は似ているように感じられますが、違いがあります。

上の”風景”という要素で捉えると、テント芝居は基本的に閉じた空間での表現になっていくため風景を最初から作品に取り入れることができません。テントは薄い幕で空間を閉ざすところに魅力や目的があるわけですが、その効果は野外劇とは大きく異なります。

私は今、そんな野外劇とテント芝居のあわいの部分、空間との関係性を考えながら創作活動を行っているところです。

第6回公演「事象T」上演風景 撮影:滝沢テイジ

/招聘活動/

おしまいに劇団の活動として、私たちはあがたの森公園での表現活動をバックアップするようなことも行っています。

これまでに、芝居、ダンス、写真のスライドショー(上映会)などを行うアーティストを招聘して催しを行ってきました。

あがたの森公園で、私たちの創作以外にも様々な表現と出会えることもとても楽しみにしています。

招聘公演「鳥が跳んでった跡」上演風景 ダンサーの横山彰乃さん

招聘公演「トヨダヒトシ 映像日記/スライドショー MATSUMOTO」しこみ風景

以上が私が松本市で行っている活動です。
“地域”と言いつつ、都市部でも地域でも場所を問わずそこには様々な風景が広がっていると思います。
そんな場所性を活かした創作が人と人や、場所、ものとの関係を繋ぐきっかけになるように感じて創作活動を続けています。

劇団野らぼう

前田斜め