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『地域で活躍する演出家シリーズ』渡部ギュウ

【プロフィール】

渡部ギュウ(役者・演出者)1964年。山形県庄内町出身、宮城県仙台市に在中。85年石川裕人主宰の十月劇場に入団。93年退団後は、役者・演出者・ナレーターとして活動。07年にSENDAI座☆プロジェクト設立。14年から、社会人向けの「朗読クラブ・演劇クラブ」などを展開中。20年(一社)東北えびす設立。飲食店を会場に「朗読劇・仙台まちなかシアター」を継続中。24年に劇団‣東北えびす始動。(一社)東北えびすシアター代表理事

代表作:一人芝居「アテルイの首(1998~2002)」一人十五役芝居「税務署長の冒険(2017~)」仙台オペラ協会主催「ドン・ジョバンニ(2012)」「フィガロの結婚(2017)」演出。仙台フィルハーモニー管弦楽団サントリーホール「幻想×レリオ(2016)」。

テント芝居から始まった演劇人生

85年(21才)から、仙台を拠点に演劇を始めました。石川裕人主宰の十月劇場に在籍。役者と舞台美術、制作を担当。テント芝居やアトリエ公演など、無我夢中、芝居漬けの毎日。反社会的な演劇に憧れて、色々危険な公演もやりました。テント芝居(野外)が多かったので、とにかく叫んでました。

十月劇場「銀猫テント」 TheatreGroup”OCT/PASS”「又三郎」@仙台錦町公園(2000年)

東北の鬼伝説に魅せられて

93年(29才)で、体と気持ちがボロボロになって退団。独立後は一人芝居を始めました。これが演出者としてのスタートです。

自分で自分を演出するわけですが、劇構造やセリフ(コトバ)の音色、キャラクター考察など、色々発見がありました。ただ孤独でしたね、一人芝居は。一人だと会話劇のような心の化学変化は楽しめません。「正確に語る」ことで時間を泳いでいく「芸」です。

その中でも、東北の鬼伝説を描いた「アテルイの首(98年から02年まで)」を全国で公演できたことは、一つの成果でした。南部弁を駆使した90分の大作です。8世紀後半、日高見(北上)山系一帯で鬼と恐れられた蝦夷(エミシ)の大王‣阿弖流為(アテルイ)と征夷大将軍‣坂上田村麻呂との攻防を背景に、エミシとヤマトの混血児エゾマロの葛藤を描いた作品でした。

演出的にも色々と変化しながら5年間上演しました。最後はハムレットマシーン(ハイナー・ミュラー)のような構造を持ち込んで、原作が崩壊。以後上演をやめています。

ヨネザワギュウ事務所「アテルイの首」@タイニィアリス(2000年) 写真:宮内勝

子どもたちとの演劇づくり

十月劇場を退団した翌年に、宮城県南部の児童劇団AZ9(アズナイン)ジュニア・アクターズの養成講師兼演出を依頼されました。演出者としては大きな仕事になりました。自治体が主催する人材育成事業で、今年で33年目の活動になります。年間42日、朝9時半から夕方4時まで、学校の先生のような感じで、小学生と演劇をつくっています。小学3~6年生、毎年30~40名で活動。卒業生は概ね地域で活躍していますが、なかには俳優、芸能活動をしている卒業生もいます。

地域の歴史や町の文化・観光財産を題材にしたファンタジーコメディを心掛けています。子どもたちも「笑い」」や「イタズラ」は大好きです。それでも現代演劇としてのテーマもあります。「なぜ戦争するのか?」「少子化を止めるにはどうする?」というような。子どもたちには難問ですが、一緒に考えたり、ディスカッションしたり。最近は、当て書きで、私が書き下ろしています。それぞれの個性を一番知っている私が台本を担当することで、よりバランスよく、創作もスムーズです。「楽しくなければ演劇じゃない。ゲームより楽しいよ演劇は!」なんてことを時々言っています。

AZ9ジュニア・アアクターズ「ムラタトリップ~道の奥じかん旅行」@えずこホール仙南芸術文化センター(2023)

AZ9ジュニア・アクターズ「桜ゴールドタウン」@えずこホール仙南芸術文化センター(2024)

SENDAI座プロジェクトという試み

07年から『仙台のど真ん中に小劇場をつくるんだ!』を合言葉に始めたSENDAI座☆プロジェクト構想。まずはレパートリーづくりと俳優養成所の運営に取り組みましたが、2011年の東日本大震災以降、養成所は人が集まらず衰退。そこでプロデュース公演に力を注ぎます。私の演出は、カナダ演劇の「洗い屋稼業」のみ。ほかは外部に演出を頼みました。東京の演出家にもお願いしました。しかし、キャリアある演出家のもとで委縮する若手が続出。それでも、2018年に「十二人の怒れる男」で、文化庁芸術祭関西ブロック「優秀賞」を頂きました。少しホッとしましたが、その2年後にSENDAI座プロジェクトは解散。小劇場開設の夢は、途切れました。そして、コロナ時代へと。

SENDAI座☆プロジェクト「十二人の怒れる男」@ピッコロシアター(2018)

コロナをのりきる秘策!飲食店を会場にした「仙台まちなかシアター」

20年夏に一般社団法人東北えびすを設立。コロナ禍に苦しんでいた仙台市内の飲食店を会場にした朗読劇をプロデュースしました。演出は、読書家で私のパートナー高橋菜穂子が担当。演出の面では私もこだわりがありますから、初めは色々と口を出しました。身内に演劇人がいると、よくケンカになりますね。家庭内で(息子たちも気を遣うので)演劇の話はあまりしないほうが良いです。ということで、家庭崩壊の危機を回避するためにすべて彼女に任せました。台本づくり、お店との交渉、助成金集めなどもすべて。現在もまちなかシアターは継続中で、レパートリーは50本、200ステージを越えました。

わたしは、市民参加で作る「演劇クラブ(大人の部活動演劇のような雰囲気)」「朗読劇クラブ(セリフを憶えなくてもよい、動く朗読劇)」「朗読クラブ(2~5人で短編を演劇的に読む・語る・演じる)」というような、カルチャー教室の運営に力を注ぎました。

そして24年に「劇団‣東北えびす」を設立。今、若手や一般の方と演劇をつくっています。俳優じゃない方の身体性の豊かさに、今かなり可能性を感じています。俳優の在り方が単なる技術やテクニックの武装になっていやしないか?演技はうまいけど、何も伝わらないという俳優じゃいかん。地方での価値観や精神のあり様が如何に大事か。そこに地域演劇の面白さがあると感じています。演劇が好きだ、この街が好きだ、生きがいがほしい、といったシンプルな想いがあれば、演劇は立ち上がるのだ。

東北えびす主催仙台まちなかシアター「夢十夜」@da Gennnaro(ダジェンナーロ)(2021) 写真:小田島万里

劇団・東北えびす旗揚げ公演「えびす温泉郷物語」

小劇場「シアターえびす」を準備中!2025年秋オープン予定。

数年前に仙台駅近くのビルオーナーから、空きテナントをアートスペースにできないか?という相談を受けました。「安く貸しますよ」というご提案。小劇場開設の夢が再び動き始めました。仙台市内でも空きテナントは増え始め、大震災とコロナで人の流れもすっかり変わったように思います。不要な外出が減り、夜9時以降は国分町(東北一の歓楽街)も寂しい感じです。

60才を迎え、最期のチャンスかもしれない。15坪という小さなスペースですが仙台駅前という好立地。この春から工事を進めています。基礎工事はビル側に応援してもらい、あとは自力。初年度家賃を半分にしてもらい契約。若いときに映画関係の仕事をしていたオーナーさんなので色々応援してもらっています。

さて、どんな劇場にするか…「時間貸しはやらいない」方向で考えています。様々なアーティストとコラボ企画をつくって運営していく。「若手の演劇を応援する」「仙台で演劇を上演したい全国の小さなカンパニーを応援する」「本屋を併設」「花屋を時々」「読書会とコーヒー談議」。夢は広がっています。ゆっくり進めます。ご期待ください。

「シアターえびす」ビル前